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2005/02/02

patent一太郎差止判決の感想

知的財産侵害による差し止めということは、現行法の当然とするところだが、これには様々な副作用があることが如実に現れたのが今回の判決だ。

一つは、一太郎という日本では官公庁を中心にメジャーな地位を占めているソフトが製造販売差し止め判決を受けたということで、普及しているだけに差し止めの影響力が極めて大きい。知財のリスクがメーカーだけでなく、多数というより大衆の利用者にもかかってくるわけである。

言ってみれば、ダイエーについてかつて言われたように、大きすぎて潰せないというのと同様の現象が、普及したソフトに生じているのである。

マイクロソフトについても知財リスクが顕在化したことは何度もあり、理屈では差し止めのリスクもあるわけだが、現実的にWindowsXPまたはその後継に製造販売差止め判決が下されたら世界的にパニックとなろう。大丈夫なのはマックを大量に導入した東大とリナックス路線に走る中国だろうか。

このように、なくなっては困る地位を獲得したコンピュータ、ネットワーク、支配的なソフトウェアについて、差し止めを基本的効果とする知的財産法制は適合的ではなくなっている。
端的に金銭賠償だけで差止請求権はなくなってもよいのではないか。

第二に、松下とジャストシステムの一連の紛争は知的財産の自己撞着をまざまざと示している。
互いに特許権侵害を主張しつつ、お互いに差し止めしあって、利用を妨げる方向で訴訟を続けている。
これが知財戦略の帰結であるとすれば、あまり望ましい社会ではないように思う。

著作権などでも、著作権保護強化が利用抑制に結びついている事例はあまたある。
知的財産というのは本来、創造のインセンティブと利用の促進との両方が目的なのであって、一方を犠牲にしては元も子もなくなる。誰にも読んでもらえない著作物を作って何の意味があるのか、というわけである。

今回の両者の紛争だって、いずれの主張が正しいのかは判断できないが、いずれにしても本来の目的は正当な権利者が正当な金銭的利得を獲得することであって、差し止めそれ自体ではなかろう。

そのような本来の目的に適合的な制度に知的財産法制が変わっていくきっかけとなるとよいのだが。

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法律・裁判」カテゴリの記事

コメント

>そのような本来の目的に適合的な制度に知的財産法
>制が変わっていくきっかけとなるとよいのだが。
先生はどのように変わると良いとお思いですか?
裁定制度や仲裁制度のより一層の活用でしょうか?
お話の趣旨は分かりますが、机上の空論に過ぎないように思います。

投稿: 無名人 | 2005/02/03 08:07

机上の空論とおっしゃいますが、方向性とか理念ということは常に忘れてはならないことです。

具体的にどのように変わっていくかですけど、例えばパテントプールという現象があります。利用許諾を前提としたやり方ですが、これが普及拡大していけば差し止め請求権は形骸化してライセンス料分配だけの話となるでしょう。

これは一つの例に過ぎません。
知的財産ならではの発展方向だけでなく、有体財産の世界での法発展も、支配権と利用権の調整の姿などをよく考えていくと、将来像を考える参考になります。

投稿: 町村泰貴 | 2005/02/03 12:35

パテントプール、ですか・・・

釈迦に説法だとは思いますが、パテントプールやクロスライセンスという方法ができなかったからこそ、今回のような訴訟になったのだと思います。

現行の制度を否定するには弱いと思いますが・・・

投稿: 無名人 | 2005/02/03 16:05

そりゃそうですよね。だから現行制度は現行制度であるわけで、それが特許訴訟の累積混乱、多くの人が使っているソフトの製造販売停止を命じる判決がでるにまで至っているわけです。
これを今後も続けていくより、別の仕組みを考えたらよいのではないか、といっているだけです。

投稿: 町村泰貴 | 2005/02/03 16:49

 お世話になっております。
 すごく細かいことなんですが、「知的財産」という表現に、常々ひっかかっております。商標とか意匠までもをそれらに含めるならば、知的と呼ぶべきでないものも含まれてしまいかねません。したがって、「知的」とつけることは、不適切であるか、さもなくば問題の矮小化になるのではなかろうかと、愚考しております。
 ちなみに、自分の講義では、その種のもの一式をまとめて呼ぶときは、無体財産権としております。著作者人格権については適切さに欠けるかも知れませんが、知的と言うよりはマシではなかろうかと愚考する次第です。

投稿: ななし講師 | 2005/02/04 23:46

>端的に金銭賠償だけで差止請求権はなくなってもよいのではないか。

>本来の目的は正当な権利者が正当な金銭的利得を獲得することであって、

今回のケースは松下側に競合製品が無く、企業の収益上の何ら損害を受けていない。
またヘルプ機能は一太郎ユーザーでも「そんなのあったの?」と言うくらいで、何ら一太郎の売り上げに寄与するものではない。
この特許を製品で見れば、損害0円、利益0円。

商取引ですから基本的に売る側と買う側が合意した価格が、適正価格と言うことになると思うのですが、すでに使用してしまっていると特許所有者の一方的価格提示に従うだけになってしまうのでしょうか。

こういう場合の何か合理的な決定方とかは有るのでしょうか。

投稿: 素人考 | 2005/02/10 22:55

知的財産と無体財産、何が「知的」かは定義によりますよね、
それに分野に含まれる法も、例えば不正競争防止法はどうなのかというと、経済法と知的財産との両方に含まれるのでしょう。
無体財産というからには「債権」も含まれるのではないかという人も出てきそうです。

私は知的財産という言い方の方が好きですが、無体財産という言い方も駄目と言うつもりはありません。

投稿: 町村 | 2005/02/11 13:43

まあ業界の慣行によって決まるのでしょうね>使用料相当額の損害。

例えばスヌーピーを商品につけて売れば、その商品の価格の10%相当だそうですし、サザエさんの絵をつけるのは3%程度とされた例があります。
特許でも、他にライセンス供与例があればそれが基準となるでしょうし、もしなければ、同程度の大きさの特許のライセンス料相場が参考になるのでしょう。

投稿: 町村 | 2005/02/11 13:51

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