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2004/10/16

不当仮処分と損害賠償の判決例

岡口裁判官のブログでは中間判決の例として引用されているが、こちらでは「過失の一応の推定」関連判決として注目する。
大阪高判平成16年10月15日

判旨は以下のようにいう。
「仮処分命令が被保全権利の不存在を理由に取り消された場合において、同命令を得てこれを執行したことにつき債権者に故意又は過失があったときは、債権者は民法709条により債務者がその執行によって受けた損害を賠償すべき義務があり、一般に、仮処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において債権者敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、当該債権者には過失があったものと推定すべきではあるが、当該債権者において、その挙に出るについて相当な事由があった場合には、上記取消しの一事をもって同人に当然過失があったということはできないというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3428頁参照)。
 ウ このことは、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分命令が発令され、その執行がされた後に、当該特許を無効とする旨の審決が確定した場合においても同様であると解するのが相当である。
 確かに、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分は、被保全権利である特許権が特許庁審査官による特許出願の審査及び特許査定を経て設定登録されたものであるし、進歩性の有無に関する判断は、一般に、当該特許発明、引用発明及び上記両発明の対比による一致点・相違点の認定のほかに、これを基礎として、出願前に当業者が当該特許発明に容易に到達することができたか否かという評価が入るため、専門的、技術的知識を要する困難かつ微妙な判断であることが多いということからすれば、特許権が進歩性を欠くという理由で無効審決の確定により無効になったからといって、債権者に過失があったものと推定することは、酷に失するという余地もないではない。
 しかし、一方において、製造販売差止めの仮処分が執行された場合には、債務者は、営業上及び信用上、極めて深刻な打撃や影響を受けることも珍しくない(特に、対象製品が債務者の主力製品であったときは、債務者が倒産に至ることすら考えられる。)ことを考慮すれば、特許権が特許庁審査官の審査及び査定を経て設定登録されたものであるとか、進歩性の有無に関する判断が困難かつ微妙なものであることが多いなどという一般的、抽象的な事情をもって債権者の過失を否定することは、当事者間の衡平を失するものであり、相当ではないといわざるを得ない。
 エ そして、本件において、被告が本件仮処分命令申立てをし、本件仮処分命令を得てその執行をしたことについての相当な事由(以下、単に「相当な事由」ということがある。)があったか否かを判断するに当たっては、まず、被告において、本件仮処分命令申立て時までに、先行技術を既に知っていたか又は容易に知り得たかを検討し、その上で、既に知っていたか又は容易に知り得た先行技術に基づき、被告が、本件特許発明に進歩性があると信じるにつき相応の根拠があったか否かについて検討すべきである。」

この事案は特許権侵害に基づく差し止め仮処分がなされた後に、特許権の無効審決という、いわばはしごをはずされた格好になったケースだが、先例として引用されている最高裁判決は、不動産取引会社の代表取締役が個人としても不動産取引をしていたという事例で、土地の帰属を巡って争いになった当事者が、本来なら代表取締役個人を相手とすべきところを会社を相手に仮処分をしてしまったという人違い事例である。

いずれも極めて微妙なケースであったが、この大阪高裁の中間判決は結論として過失を認定している。
その特徴は、むしろ特許権の無効審決が後に確定したという事例において、当該特許に基づく仮処分を執行したからといって直ちに過失が推定されるわけではないという一般論が導けそうなところにある。

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