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2004/10/19

水俣関連answer

1.どれくらい前のことまで訴えることができるのか。
2.昔の事象を判断するときも、今の社会通念を適応するのか。
この質問に対して私は以下のように答えた。
1.訴えを起こす期間制限はないし、大昔のことが問われる裁判もあるが、時効・除斥期間といった制限はある。
2.法律は行為当時のものが適用されるのが原則だが、社会通念は今の内容が原則として適用される。

まず、訴える期間というのは原則として制限がありません。江戸時代の権利関係が問題となる訴訟というのも、あり得ます。
しかし、不法行為による損害賠償を求める権利については、損害と加害者を知ってから3年という消滅時効があり、また不法行為のときから20年という期間制限があります。それ以前の不法行為は、訴えても権利が認められないことになります。
ところが、最近の判例ではこの20年という期間制限も弾力化しつつあり、今回の水俣病患者の例でも次のように判断されてます。

「身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害されることによる損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解するのが相当である。」

つまり、潜伏期間が長い水俣病は、その加害物質排出のときではなく発病するときから20年、損害賠償を求めることができるとしました。

ということで1についてはかなり昔に遡ることがあるというわけです。

次に2ですけど、二つのレベルを区別しましょう。
第一に法律の適用のレベル、第二に解決にあたっての社会通念のレベル。
そして刑事と民事とでも随分違います。。

分かりやすいのは刑事事件で、刑事事件では行為のときに有効な法律が適用されます。後でその行為を犯罪とする法律が出来たからといって、行為のときに適法だった行為で処罰されてはたまりませんから。
逆に行為のときにはその行為を犯罪として処罰する法律があったけど、その後その法律が廃止されたという場合、この場合は無罪じゃありませんが、処罰するのは不当かもしれません。ということで、免訴という判決をします。

このように刑事では、行為のときから裁判のときまでに法律が変わったとき、被告人の利益になるように判断するという分かりやすい構造があります。
もっとも社会通念が変わり、解釈が変わるという場合は、行為のときに一般的だった解釈・通念ではなく裁判のときの通念で判断されます。そして被告人に利益に変わるのであれば問題はありませんが、被告人に不利に、つまり行為のときの解釈では許される行為が、裁判のときには許されないと判断されることもあります。特に判例変更という場合には、遡及処罰禁止の憲法原理に違反するという疑いも生じます。

民事の場合は厄介です。両当事者とも私人ですから、いずれかに有利に解釈するということはできません。それから刑事の場合は昔の行為をどう評価するかという問題ですけど、民事では、現在の法的関係をどう判断するかという問題です。水俣病の場合も、40年前の汚染物質排出行為とその規制行為の評価が問題のように見えますが、直接問われているのは、現在被害者に損害賠償を求める権利があり国に賠償義務を認めるかという問題です。

まず法律の適用のレベルでは、原則として刑事と同様に、法律が改正されてもその適用は改正されたとき以降に限られます。遡及適用はしないのが原則です。ただし、例外は認められています。
次に解釈や通念のレベルでは、裁判のときの解釈や通念が適用になるのが原則です。ただし、この点は、この様にいってしまうのはあまりに大雑把すぎます。違法性とか過失の判断の中でも、現在の価値基準に照らして判断される部分と、行為のときの当事者の認識が問題になる部分とがあります。その前提となる技術水準なども、行為当時の水準が基準とならざるを得ません。

例えば医療過誤事件なんかが分かりやすいかもしれません。
15年ほど前に手術を受けて、悪い結果となり損害を受けたという場合、行為の当時の医療水準で最善の手段を尽くしていれば、過失とはいえないでしょう。たとえ現在はもっと進んだ技術があったとしても。
しかし説明義務とかインフォームド・コンセントといった問題が絡むと、その当時はあまり説明しない態度が一般的に認められていたとしても、現在の価値基準から判断して違法だといわれることがあります。

(追加:実はこの点シビアな問題がある。
ある判決で問題となった例は、男女雇用均等法の制定された現在は雇用上の男女差別は原則として違法だが、かつては許されていた。その許されていた時代の格差が原因で、現在のポストとか給与とかに格差が残っているという場合に、その判決はかつて許されていたことを理由に差別による損害賠償を棄却したのだ。
これはしかしおかしい。問題となっているのは、現在の格差なのであって、それを是正するための損害賠償等の成否には、現在の価値基準が適用になるというべきである。)

ということで、公害事件と行政の規制権限の行使に関する今回の水俣病裁判では、法的に認められていた当時の規制権限が基準となりますが、その行使不行使の基準については現在の価値基準で判断されるのでしょう。
この点はもっときめ細かく検討すべきかもしれませんし、異論もあるところですが、おおづかみにいうと、そういうことになります。

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リンク先は民事中心ですが、先週総論の講義であつかったばかりのところに関係するので、ちょっとだけ、考えてみましょう。 Matimulog:水俣関連answe... [続きを読む]

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