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2004/08/01

民法の難解さ(続き)

民法が難しいのはコトバ(単語)が難しいからというわけではない。
前回挙げたような、誰も読めないような字を追放して分かりやすく書き換えたところで、コトバには解釈がつきまとうし、さらに法律学特有の論理もつきまとう。
例えば心裡留保というコトバ。なんと言い換えるのかよく分からないが、意味は「本心で思っていないことを他人にいうこと」だ。法律用語で表現するなら、「表示意思に対応する効果意思が欠けている状態」をいう。

もっとくだけていうなら、冗談もその一つだし、仮想事例もその一つだ。しかし思ってもいないことを口にしてしまうということ一般とは違う。
それから心裡留保の対象はあくまで法律行為なので、好きでもないのに「好きだよ」といったり、逆に大好きなのに「おまえなんか嫌いだー」というのは心裡留保の概念には入らない。

最近よく見かける実例としては、名義貸しのケースだ。銀行が、やばい人にお金を貸すときに、表面上の借り主や連帯保証人には別人の名前を使い、いわゆる迂回融資をする。当然やばい人なのでちゃんと返済されるとは限らない。焦げ付くと、名義を使われた借り主や連帯保証人に請求することになるが、この金銭消費貸借契約を締結するという意思表示は、表示があっても効果意思はない。そしてそのことを銀行は知っているわけだ。

だから、銀行は名義貸ししたにすぎない借り主に、金を返せとはいえないというのが「心裡留保」の規定の効果となる。

ところが、心裡留保は、原則有効な意思表示になるとあって、心裡留保による意思表示の相手方がその心裡留保による意思表示であることを知っていたり、当然知っていておかしくない状況だったりすれば無効になるという規定だ。
さらに、厳密に言うと名義貸しは心裡留保の規定の適用がストレートにあるのではなく、類推適用だという。

こういった様々なことが、「心裡留保」を規定した民法93条に詰め込まれているので、単にコトバを書き換えただけではわかりやすくならないのだ。

分かりやすくするために現代語にして、しかも解釈で認められていたところをなるべく条文に明確に書いた結果、日本語としてさっぱり分からなくなった例が、今年改正された破産法だ。
長くなりすぎるので、ここでは引用しないが、現行破産法72条の簡潔な文章と、新破産法160条以下とを読み比べてみるとよい。

要するに、法律の文章をなるべく分かりやすくするとか、時代にあった用語にするとかいうことに反対するわけではないが、それでは話は済まないというのがここでいいたいことだ。
法律の文章自体は、専門用語を奇妙に言い換えるなどせず、むしろ簡潔な規定をおいておく方が望ましい。
その解釈は、必要があれば法律に取り込むにしても、同時にリステイトメントや注釈書でアップデートにしておく方が利用者としてはかえってアクセスしやすい。
そしてどのみち、一般人にとってはわかり安いガイドブックと、案内人となる法曹がたくさんいて安価に気軽に利用できる方がよい。むしろアクセスのために不可欠である。

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