Winnyの記事−NBL
NBL=New Business Lawという雑誌789号の惜字炉という欄に、Winny開発者の逮捕起訴に関するコラムがある。
その趣旨は不鮮明だが、全体としてはどうやら、現在の刑法理論の下で、開発者の幇助行為と正犯の侵害行為との間に相当な因果関係が認められるとはいえないとしつつ、それではよくないので新たな共犯理論が求められているということらしい。
しかしながら、新手の著作権侵害行為といっても、送信可能化権侵害を刑事処罰した時点で、ネットによる著作権侵害行為にはほぼ網を広げ尽くしたのではなかろうか?
Winnyの開発それ自体は著作権侵害行為ではないが、それをも共犯として検挙できるような解釈をしたら、インターネット関連のコミュニケーションツールの開発など危なくてできなくなってしまうというのが問題なのだが、共犯理論自体も新しくして正犯との因果関係がはっきりしなくてもとにかく役立てば幇助とするのがよいというのだとすれば、随分乱暴である。
ネット時代における、著作権保護のための新たな課題という表題からは、デジタルネットワークを前提に「複製権」中心の著作権のあり方を見直す方向が予想されるのだが、そうした識見は感じられない。
NBLのこれまでの記事にも、そうしたニュアンスの記事は多く掲載されていたので、惜字炉作者もNBLのバックナンバーを読んで勉強してもらいたいものである。
その一方で、「素人目には、この開発者がなぜ著作権侵害の教唆ではなく著作権侵害の幇助で罪が問われているかに疑問が集中しているように見える」とも指摘している。
この一文も最初と最後とがうまくかみ合っていないような気がするが、ともあれ幇助事案より教唆になじむ事案ではないかという指摘であろう。
私もこの欄で新聞報道を前提に無責任なことを書いたりするが、上記の教唆ではないかというコメントの前提には「新聞報道によれば、この開発者は、自らが開発したファイル交換ソフトを利用して著作権侵害を行うように、ネット上で第三者に対して広く発言を繰り返していた」という認識がある。
え゛、新聞ではそんなことまで書かれていたのか、と驚いてしまうのだ。
新聞でも、ネットでも、47氏が著作権の考え方を覆すという趣旨の発言をしたとか、著作権侵害を蔓延させるという趣旨の発言をしたとか言われている。
しかしWinnyを開発して、「さあみなさん、著作権侵害のファイル交換も捕まる心配なくできますよ」といったとは伝えられていない。かえって著作権侵害をしないようにとの注意がお約束で付けられていたということだ。
またそもそもどこまでが47氏の発言なのかは必ずしも明らかでないので、著作権侵害を蔓延させるといった趣旨の発言も真相は不明である。
ともかく、「自らが開発したファイル交換ソフトを利用して著作権侵害を行うように、ネット上で第三者に対して広く発言を繰り返していた」という新聞報道は見たことがないと思うのだがどうだろうか?
NBLの権威を傷つけるコラムと言うべきである。
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コメント
久々にwinnyの記事を見たので、
個人的な意見を書きます。
今回の事件は、なぜか、winnyが
何であるかを知らずに、著作権侵害のための
ツールであると書く人や、
「著作権侵害を蔓延させる目的で作った」
と掲示板に書き込んだと、確認もせずに
論じている人が多数います。
「新聞報道によれば、この開発者は、
自らが開発したファイル交換ソフト
を利用して著作権侵害を行うように、
ネット上で第三者に対して
広く発言を繰り返していた」
とあるのも、あるところから出た報道に
尾ひれがついてこうなったのでしょう。
もちろん、事実とは異なりますが。
このような記事は、逆に言えばあるところの
ネガティブキャンぺーンが、
実に効果的であったを物語っています。
しかし、
彼らが、事実と異なることをリークしたと
分かったとき、
誰が、そこを糾弾するのでしょうか?
日本の報道にはもう少し頑張って欲しいと
思います。
先日、某雑誌に、winnyはウイルスに
感染すると個人情報が漏洩して、
消去出来ないので危険だという論調で記事が
書かれていました。
彼らは、一昔前に、マイドキュメント内の
ファイルを添付ファイルとして、まき散らす、
ウイルスがあったことを知らないのであろうか、
その際には、e-mailやメーリングリストが
悪者という話は無かったはずである。
winnyは単なる通信手段で、この問題は、
インターネット全体の問題だと、
言うことは、すぐに分かるはずである。
私たちは、技術に対してもう少し謙虚でなければ
ならないのではないだろうか。
投稿: 弁護士壇俊光 | 2004/07/20 11:19