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2004/07/13

通信事業者への八つ当たり(続)

NetWindさんにトラックバックされたので、トラバ返ししよう。

昨日は通信事業者への八つ当たりと題してヤミ金の脅迫的な電報を受け取った被害者が電報事業者を訴えて敗訴した話を紹介し、検閲しなかったといって責任追及するのはあきれ果てると書いた。

これに対してNetWindさんは、「あえて」として、さらに一歩考察を進めてくれている。正確には当該ページを見てほしいが、私の理解した限りでは、弁護士が当事者の代理人となって訴えることが当事者の意思に基づいてる限り、弁護士がフィルターをかけるべきじゃない、間違った訴えなら裁判所が最終的に判断するのだし、裁判所が誤った判断を下せば世間の批判にさらされる、そうやってトータルに自律的な正しさを維持していくべきものではないか、という主張である。

ほぼ賛成で、少し脊髄反射的なエントリだったかなと反省しないでもない。
ただ、二点ほど指摘しておきたい。

一つは、NetWindさんの主張の中には、裁判所が判断者として振る舞いつつ、世間からの掣肘を受ける仕組みになっている。私は、弁護士も同様に判断者として振る舞う存在だと思うのだ。確かに当事者の代理人だが、他方で社会正義とか基本的人権を尊重する存在としても期待されており、その判断には自ら責任を負わなければならない。
この点は弁護士倫理の基本問題である。答えは出ていない。正義に悖ると思われる訴訟を依頼されたとき、弁護士はどうすべきか?
私の考えでは、信念や趣味に反するとして断るのも一つの答えだし、受任しつつ正当な主張になるように努めるのも一つの答えだ。商売と割り切って何でも受けるのも、違法行為にわたらない限り許される(弁護士倫理の枠はある)。個々の弁護士はそのいずれの行動も選ぶことが出来るし、かつ、その選択で少なくとも事件を受任する場合はインフォームド・コンセントを尽くさなければならない。そしてその判断には、他からの批判にさらされるという形で責任を負うのだ。

もう一つ、今回の場合は当事者本人の判断というより弁護士の判断だと思うが、弁護士の判断によって訴えを提起することは、それ自体として人を傷つけたり、萎縮させたりといったリアクションを引き起こす。もちろんそうした副作用はあっても、主張すべきことを公開の討議の場に持ちだして裁判所の判断を求める自由は最大限に尊重されるべきだ。しかし、ものには限度があって、どこかで濫訴と評価される領域がある。
今回の訴えは、通信事業者に対して、検閲をしなかったといって責任追及するものだ。弁護士が当事者の主張したいことにフィルターをかけるべきでないと主張する人は、より強く、通信事業者(それもコモンキャリア)が通信当事者の通信に「勝手に」フィルターをかけるべきではないと、いいそうなものだと思う。

ちなみに、ヤミ金なり架空請求なりの対策として、それらの業者からの電報・手紙は取り次がないというのも一つの解決方法であり、被害者からの申し出に基づいて名簿を郵便局に備え付け、その被害者に対しては一定の業者からの通信を遮断するというのも有りかもしれない。
迷惑メール対策でメールサーバ事業者がやっているのと同じであり、また通信の自由といっても相手方に受領させる権限まで含むわけではないだろうから、法的にも問題はなさそうだ。郵便局版フィルタリングサービスというわけだ。

しかしそうなると、ヤミ金とかに限らず、イヤなやつからの手紙や電報、電話を取り次いでくれるな、という形で利用されるかもしれない。職場からの連絡はお断りとか、編集者からの連絡はお断りとか、引きこもり気味の大学の先生なんかだと受講者からの連絡はお断りとか・・・。
実際スパムを野放しにしたせいでメールの信頼性がすっかり落ちたように、ヤミ金や架空請求の横行が郵便や電話などのネットワークの信頼性・有用性を台無しにする日も近いような気がしてきた。

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コメント

町村先生

Trackbackありがとうございます。

正直に言えば、先生の意見に賛成しています。僕にはおそらく原告団の弁護士の方に知り合いはいないでしょうからはっきり言いますが(笑)、このような訴訟を受ける弁護士の先生は、たとえどんなに法律的な知識が持っていらっしゃっていても、法の精神をご存知ないのではないかと思ってしまいます。

僕が書いたエントリは後半がちょっと混乱してしまいましたが、先生の正しい言葉遣いに従って書き直すと、“濫訴の範囲”というのは時代とともに変化していくものでしょうから、完全に確定することは不可能であるとしても、社会においてある程度のコンセンサスがあるべきだと思います。僕のエントリでは「司法関係者のコンセンサス」という書き方をしてしまいましたが、社会全体でのコンセンサスであるべきで、この議論には僕たちのような法律の素人も勉強して参加しなければならないと思います。

先生も「こうした主張は決して少数意見ではないらしい」と認めていらっしゃるように、“濫訴の範囲”を社会である程度のコンセンサスを得るには、かなり大変なことですが、丁寧な議論が必要だと感じています。

司法関係者が、このようなコンセンサスを得るための議論を正しくリードして頂けることを期待しています。

投稿: netwind | 2004/07/13 22:48

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