ゴー宣名誉毀損事件最高裁判決
かねて話題のゴーマニズム宣言関連で、「ドロボー」という表現を含む記述を、最高裁は法的な見解であって意見論評に属するものだと認めた。
最判平成16年7月15日
見解ないし論評だということになると、名誉毀損の免責要件は以下のような一般論で判断される。
「その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば,その故意又は過失は否定される」
このように意見の前提となる事実の真実性は問われるが、意見自体の真実性は問われないし、正当性とか合理性も問われない。
「意見ないし論評については,その内容の正当性や合理性を特に問うことなく,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,名誉毀損の不法行為が成立しないものとされているのは,意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものであることを考慮し,これを手厚く保障する趣旨によるものである。そして,裁判所が判決等により判断を示すことができる事項であるかどうかは,上記の判別に関係しないから,裁判所が具体的な紛争の解決のために当該法的な見解の正当性について公権的判断を示すことがあるからといって,そのことを理由に,法的な見解の表明が事実の摘示ないしそれに類するものに当たると解することはできない。」
問題のドロボー発言を含む小林よしのり氏の表現だが、ポイントは二つである。一つはこれが法的な意見ないし論評に属するということ、もう一つはこれが「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したもの」かどうかということだ。
第一の点は、漫画のカットを多数転載した事実を前提に、これは著作権侵害だから法的手段をとると表明しているので、意見に属するといってよいであろう。
問題は後者で、人をドロボー呼ばわりするのはどう考えても人身攻撃そのものである。最高裁がこの点を逸脱していないと判断したのは、次の指摘が重要だ。
「被上告人は,上告人小林を被上告人著作中で厳しく批判しており,その中には,上告人小林をひぼうし,やゆするような表現が多数見られることなどの諸点に照らすと,上告人小林がした本件各表現は,被上告人著作中の被上告人の意見に対する反論等として,意見ないし論評の域を逸脱したものということはできない。」
結局、人を攻撃して誹謗し、揶揄する表現を使えば、その反論もある程度は攻撃的な表現が許されるということである。
もちろん程度問題があるが、名誉毀損の評価が、問題の発言だけを孤立してとらえて評価したのでは正しい評価ができないということを示した点で、重要な意義がある。
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