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2004/06/13

JLFの法科大学院適性試験

今日は、日弁連法務研究財団の実施する第二回法科大学院適性試験の日である。
台風が首尾よく消え去った後で、東京は受験生生活を象徴するようなどんよりとした曇り空だが、ともかく嵐で交通が乱れたりすることなく無事実施できそうだ。

この試験、ロースクールの入学に必須とされているので、一般には法律の試験と誤解されている向きもあるようだ。実は全くそうではなく、論理的判断や分析的判断、長文読解力、そして表現力を試すものである。
例えば、次のような問題ができる。

====
問題【1】 ある大学にはAからEまでの5カ国から留学生が来ている。この各国のうち2カ国は嫌煙権が確立し、非喫煙者が喫煙者と同じ部屋に入ることはない。また3カ国は男女を同室にすることをタブーとしている。さらに、5カ国中3カ国は国境紛争のため互いに仲が悪く、同室にすると留学生同士が喧嘩を始めてしまうため、同室にできない。また2カ国は元植民地と元宗主国の関係にあるため、この二カ国の留学生同士も同室にすることができない。

 以下のような事実があるとき、下記の設問に答えなさい。

・A国の男性留学生ジョンは煙草を吸わないが、この大学に留学したとき同室となったE国の喫煙女性留学生と結婚することとなった。
・B国の男性留学生ピーターは煙草を吸わないが、A国の男性非喫煙留学生との同室を断った。
・C国の女性留学生ルーシーは煙草を吸うが、B国の女性留学生の誰とも同室になることができた。しかし、E国の留学生とは、煙草を吸う女性としか同室になれなかった。
・E国の留学生カオルは、どの国の留学生とも同室になった。

[1]次のうち、確実に正しいのはどれか?
1. B国は国境紛争を抱えていない。
2. A国は国境紛争を抱えている。
3. A国は元植民地である
4. D国は旧宗主国である
(以下略)
====

過去の問題については日弁連法務研究財団のウェブページにも掲載されているほか、解説付きでガイドブックが出ているので、そちらを参照するとよいが、問題のタイプが4種類あってもいずれも法律知識は不要な問題である。

かつて、この試験の試行テストに関わったときに、試験を受けたモニター学生が、「こんなものでロースクールって入れるんだ!」といっていたのを聞いたことがある。
その学生の真意はわからないが、一般的に法科大学院の入試としては意外感があるのだろう。そのことは、このようなテストで法律家になる適性が測れるのか、という疑問ないし批判にもなっている。
特に、大学の先生からは、自分のゼミ生で優秀な者がひどい成績しか残せなかったといって、適性を測ることなどできないという厳しい批判がある。

しかし、法律家に論理的な思考能力や分析能力が必要なことは、全く異論がない。長文読解や表現力も同様である。問題はそれを正しく測れるテストとなっているかどうかであり、その点は個々のテスト問題の検討によらざるを得ない。もう一つの実施団体が行うテストの内容とも合わせ、完全な透明さの中で検討を進めていくべきである。

もう一つの問題は、開放性・公平性・多様性の理念と、法学部を存続させるという現実の中で、少なくとも未修者は法律知識を全く問わない入試をせざるを得ず、そのことから生じる誤ったメッセージである。
つまり、法科大学院では法律を学び、実務家になるための教育をするが、それ以前は全く法律を学んでいなくとも大丈夫という幻想を振りまいている。
正確には、法律を学んできた学生に対し、他の分野の専門を究めた学生でも入試段階で不利にならないようにするというだけであって、入学後は法律学を学ぶ以上、その予備知識があった方が有利に決まっている。他分野から算入する学生は、そのハンディを克服すべく、必死の努力をしなければならない。
さらには、法律を学び、道具として活用し、つまり法律を使った議論を駆使し、新しい法律や裁判例ができればそのを学び、といった作業を一生の仕事として継続するわけだ。そうした営みがイヤでないことが必要である。高い学費を納めて入学し、法律の勉強が好きになれないことを発見しても転身は困難な場合が多い。是非とも、合格してから入学するまでの間、みっちり法律の勉強をしておくことが、その後のハンディ克服にも、また自らの適性判断にも有用である。

法律知識を問わない入試制度は、入学前に法律学の自学自習が必要だというメッセージを出さないという欠陥がある。この欠陥を補うためには、入学前指導を行うとか、入学案内に具体的に勉強をしておく必要があることを記載しておくとか、特に念入りの指導が不可欠である。
さもなくば、誰でも法律家になれるかのような宣伝で客を集めて、後は自己責任といって責任を持とうとしない「士商法」と変わるところはないといわれてしまうと思うが、どうであろうか?

町村泰貴

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コメント

問題を読んで、アメリカの大学院に入るための
GREを連想しました。
(正直言って難しくて、解くのは断念しましたが(笑))
僕はこのような問題によって、入試が行われることに
肯定的です。時間が経って、経験者が増えれば、
本当に何が必要かということは分かっていくと思います。
現在は、制度の過渡的な時期で、この時期に法律家を
目指す人にとっては大変な時期だと思いますが、
論理的思考力を重視するという姿勢を示すことのほうが、
現在の日本社会では大切なように思います。
一番問題なのは、このような問題に特化した訓練の
方法論が予備校などに蓄積され、本当の論理的思考力が
判定できなくなってしまうことの方を心配すべきだと
思います。そのために、常に論理的思考力を正しく判定する
方法を研究・開発する機関が必要なのではないかと思います。
これは法科大学院だけの問題ではなく、社会全体で
取り組むべき問題だと思いました。

投稿: netwind | 2004/06/13 11:25

アメリカなどの経験では、訓練することで一定のレベルアップは期待できるけれども、何年も訓練すればそれだけアップするというものでもないようです。

現行司法試験の弊害としてよく言われるのが、7〜8年勉強して知識をため込まないと合格できないというのがあります。ロースクールの入試に何年もかけるというのでは本末転倒ですから、長くてもせいぜい2〜3ヶ月の訓練なら、まさに頭の体操としてやってみてもよいでしょう。

投稿: 町村泰貴 | 2004/06/13 15:20

一応説いてみました。
頭の体操愛読者としては、負けられません。

ちなみに早く説くこつを。
この手の問題は、まず、回答を見ます。
今回は、宗主国と近隣国しか聞いてません。
近隣国関係は5C3=10とおり
宗主国関係は5C2=10とおり
あとは、つぶして行くだけです。
さらに楽をしたいなら、
E国は絶対に入りません
ので
近隣国は4C3=4とおり
宗主国は4C2=6とおり
となります。

あとは、同室できた国の組み合わせを
消すと。。。。。。
この問題では、禁煙国とか男女同室とかは
関係ないんですよねぇ。

投稿: 弁護士壇俊光 | 2004/06/13 17:31

はじめまして。頭の体操、試してみました。

・A国の男性留学生ジョンは煙草を吸わないが、この大学に留学したとき同室となったE国の喫煙女性留学生と結婚することとなった。

a.A国は嫌煙権が確立していない
b.A国とE国の間には国境紛争も元植民地-元宗主国の関係もない
c.A国とE国は男女同室可能である

・B国の男性留学生ピーターは煙草を吸わないが、A国の男性非喫煙留学生との同室を断った。

d.B国とA国の間に国境紛争があるか元植民地-元宗主国の関係である

・C国の女性留学生ルーシーは煙草を吸うが、B国の女性留学生の誰とも同室になることができた。しかし、E国の留学生とは、煙草を吸う女性としか同室になれなかった。

e.B国は嫌煙権が確立されていない
f.E国は嫌煙権が確立している
g.C国とB国もしくはE国の間には国境紛争も元植民地-元宗主国の関係もない

・E国の留学生カオルは、どの国の留学生とも同室になった。
h.E国はいずれの国とも国境紛争も元植民地-元宗主国の関係もない

よって、

ア.嫌煙権が確立している国 :E,
  嫌煙権が確立していない国:A,B

イ.男女同室できる国:    A,E
  男女同室できない国:   B,C,D

ウ.国境紛争がない国:    E,BかCのどちらか
  国境紛争がある国:    A,D,およびBかCのどちらか

エ.元植民地-元宗主国の関係:AとB,AとC,AとD,BとD
               CとD,

確実なのは2ではないでしょうか?

投稿: ROM男 | 2004/06/14 00:29

壇さん、ROM男さん、正解です。

壇さんのように問題からアプローチするやり方とROM男さんのように関係を整理してから問題を解くやり方の両方がありますね。
実際の問題はこの後小問がいくつか続き、場合によっては条件を増やしますから、ひょっとした最初に少し時間をとって整理した方が早いかもしれません。

ちなみに私は、5カ国の星形図形で、それぞれの国の間に同室可能関係を線で引き、不可能確定関係を×付き線で引き、残った国を点線で結びました。すると、ADBとADCの二つの三角形が成り立ちましたから、国境紛争のある3カ国にAとDが含まれることは確実となりました。

今年の適性試験は、私も解いてみましたが、時間内に全部解くのはまず無理な、頭の疲れる問題という感想を持ちました。
老化現象かとおびえる毎日です。

投稿: 町村泰貴 | 2004/06/14 14:42

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