DV離婚の国際裁判管轄
判例時報1854号51頁に掲載されている東京地判平成16年1月30日は、興味深い。
日本人女性がフランス人男性と結婚してフランスで暮らしていたが、夫のDVにより婚姻関係が破綻し、夫が警察に連行されたときに家を出て、子供を連れて日本に帰国した。そして日本の裁判所に離婚訴訟を提起したという事例である。
こういう場合、通常は夫婦の住所地であるフランスに離婚訴訟の国際裁判管轄があるのが原則だが、最高裁は、平成8年6月24日に、例外的に日本の国際裁判管轄が認められる場合があることを認めた(民集50-7-1451)。
その基準というのは、「原告が被告の住所地国に離婚請求訴訟を提起することにつき法律上又は事実上の障害があるかどうか及びその程度をも考慮」するという点である。
最高裁の事例では、ドイツで妻が離婚訴訟を提起し、日本で夫が離婚訴訟を提起し、妻の提起した訴訟は公示送達で確定したが、それは日本に効力が及ばないという状況で、夫はドイツで離婚訴訟を提起しようにもドイツでは離婚判決が確定しているのであるから起こすことが出来ず、他方日本ではドイツの判決効が及ばないので婚姻が継続しているため、日本で提起せざるを得ないという。
これに対して今回の東京地裁の事例は、法律上フランスで訴え提起することに障害はない。しかし東京地裁は、夫のDVという状況で、フランスで訴え提起すればフランスの裁判所は和解を試みなければならず、そのためには両者を同席させなければらない、従って身の危険があるという論理で、訴え提起の障害が事実上はあると認めたのである。
事例判決といえば事例判決だが、こうした解釈が広く認められれば、海外で結婚生活を送り、DV被害を受けて日本に逃げ帰ってきた被害者にとって、福音となることだろう。
| 固定リンク
「法律・裁判」カテゴリの記事
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- 民事裁判IT化:“ウェブ上でやり取り” 民事裁判デジタル化への取り組み公開(2023.11.09)
- BOOK:弁論の世紀〜古代ギリシアのもう一つの戦場(2023.02.11)
- court:裁判官弾劾裁判の傍聴(2023.02.10)
- Book:平成司法制度改革の研究:理論なき改革はいかに挫折したのか(2023.02.02)
コメント